■昭和6年みな子への和歌(全18首) B1-4

 みな子のアルバム(D3-7)末尾に貼られた18首 印刷物を貼り付けたものだが出典は不明。
 アルバムの作成者は信一。写真はすべて信一が撮ったもので、末尾の手紙も信蔵から信一へのもの。



●病兒を詠める九首

鶯は森に歌へど病める兒の
 春はかへらで音のみそなく

如何なれば罪なき愛兒斯くばかり
 悩ませますかまかつひの~

此春は梅も櫻もはた鳥も
 深きうれひの種となりぬる

ともすれば~恨めしく思はれて
 病める我が子の顔を見守る

笑顔もて看護はすれど胸の中に
 包み兼ねたる母のかなしみ

氷割る音も如何にと心して
 小暗き方に避くる眞夜中

なるならば老いの此身を置きかへて
 汝がそのなやみ我れし受けむを

痩せ細る腕をとりて病める子の
 母のうれひの如何にかあるらむ

熱計るうつわ挟まむすべもなし
 瘠せしかひなの身に副はずして



●亡兒を9詠める九首

瘠せ果てしむくろ抱きて納めつる
 柩のうへにあつきあめ降る

聲高く其名呼ばむか逝ける兒の
 閉じしまなこを今や開くと

幾千たび繰返してもかへり來ぬ
 逝きし我子のいとほしきかな

顔ばせは花とも見しを花ならば
 咲きのさかりに逢はしめましを

ひとり缺けし夕餉の席の淋しさに
 手に執るはしのいと重くして

聲をあげて心のままに泣きたらば
 この悲しみの消えもはてむか

立ちのぼる香のけむりの其中に
 ありしおもわの浮ふ心地す

手を曳きて共に行くへき旅ならむ
 亡き子のけふの門出かなしも

今しはし蓮のうてなに待てよかし
 やがても行かむ老いたるちちはは


(C) Kyukei Kinenkan 2024